• 東京・新宿・奥神楽坂にあるお琴教室・三味線教室
池の浮草、漂いて。錦を晒すごとくなり。

今年は春の花を愛でる事もほぼ、叶わず。季節は初夏へ。

五月晴れとはこの事ね♪という気持ちの良い晴れた日も、オウチでお琴の練習などしております。

坂田先生、稲葉先生にお願いして譲って頂いた楽譜に「大原御幸」という、素晴らしい楽曲があります。

「大原御幸」は、平家物語・灌頂の巻の物語を描いた曲で、壇ノ浦で御座船から身を投げた建礼門院が、源氏の武士に救われた後に出家して、京都・大原の寂光院にお入りになられた所を、後白河法皇(建礼門院の元舅にあたる人)が尋ねる様を歌っています。

その中に、人里離れた山奥にある寂しい山寺の、美しい初夏の様子を唄った歌詞があります。

「卯月二十日も過ぎし頃。

庭の若草も繁りあい、青柳の枝は細い糸の様に風にもつれている。

池の浮き草が波に漂っているのは、さながら錦を池水に晒しているかと見まごうばかり。

池の中島の松に這いかかった藤が薄紫に咲いている色の美しさ。

青葉の間に見える遅い桜は、初めて咲く花よりも珍しく。

岸の山吹は黄色に咲き乱れる。

「池水に 汀の桜散りしきて 波の花こそ盛りなりけれ」

池水に岸辺の桜が散り敷いて、今は木の花は散ったけれど、

波の花の方が盛りでありました。」

この様に美しい春の光景の中、お互い出家した身である法皇と女院(建礼門院)が対面する訳ですが、この何とも言えない光と影の有り様を、琵琶と箏と唄で表現されているのです。

旧暦の卯月二十日頃とは、ちょうど今頃の季節で、平家物語・灌頂の巻の、古典の世界に思いを馳せるにはちょうど良い季節。

自由にならない侘しい身の上に、この美しい季節を、建礼門院はどうお感じになっていたのか、ちょっと想像しながら、箏を弾いてみたいと思います。